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Tag: pdf overprint オーバープリント

PDF運用におけるオーバープリントについて

 PDF運用のメリットは、PDFそのものが印刷データと出力見本を兼ねることです。厳密にはAcrobatのオーバープリントプレビュー表示が出力見本となります。正しいPDF運用のために、オーバープリントとは何なのか知っておきましょう。

分版出力とオーバープリントの基本

 PostScriptデータを分版出力するためには、分版するためのフィルタにかけます。分版に対応したPostScriptデータは分版するためのフィルタを通すことで、指定したC、M、Y、K及び特色版(スポットカラー)の各チャンネル要素のみを抽出することができます。

 分版出力時には、各オブジェクトが含むオーバープリントという属性によって、描画される/されないが決定されます。オーバープリント属性を持っていないオブジェクトは、単純に階層の奥から手前の順に描画されます。オーバープリント属性を指定されているオブジェクトは、もし抽出指定されたチャンネルのカラー値が0%の場合、描画されません。例えば、オーバープリント指定されていないCMYK=0%のオブジェクトは白として描画されます。しかし、カラー成分CMYK=0%のオブジェクトがオーバープリント属性を指定されているときは(基本的に)全く描画されません。

 カラー成分C0,M0,Y0,K100%のオブジェクトがオーバープリント属性を持っているとき、このオブジェクトはC,M,Y版には描画されず、K版のみに描画されます。背面にカラー成分C,M,Y(いずれかまたは複数の掛け合わせに)よるオブジェクトが存在していた場合に、前面のC0, M0,Y0,K100%オブジェクトは背面のC,M,Yチャンネルを変化させないという効果があります。

 ちなみにこの技法は「スミのせ」と呼ばれる簡易トラッピング処理です。K100%の小さい文字(12 pt以下)や細い線のオブジェクトは背面の色を残しておくことで、印刷時に発生する微細なずれによりC,M,Y版との間に隙間が発生ししても全く目立たなくできる効果があります。

 見出し文字やイラストや帯など、面積の大きいK100%オブジェクトが「スミのせ」のとき、背面のC,M,Y版と重なった部分だけがより濃い黒に見えてしまうことになりますので、全てのK100%オブジェクトにオーバープリントを適用すべきとは限りません。

 さて、オーバープリント属性を使用した場合、先のスミのせのように色が混ざって見えることがあります。ですが、必ずしも「加わる」とは限りません。例えば、C100,M0,Y0,K0%のオブジェクトの前面に、C0,M0,Y100,K0%のオブジェクトをオーバープリント指定した場合、結果は C100%とY100%が重なって緑色になります。この場合色が混ざって見えます。

 しかし、C100,M100,Y100,K0%オブジェクトの前面に、C1,M0,Y0,K0%のオーバープリントオブジェクトを乗せた場合、前面オブジェクトが重なった箇所は1%のC版のみが描画されるので目に見える結果は赤色になります。

 このように思わぬ結果になることがありますので、オーバープリント属性を色を混ぜる目的に使用することはおすすめできません。K100%以外のCMYKカラーオブジェクトにオーバープリントを指定しないことをおすすめします。

In-RIPセパレーションの振る舞い

 分版するためのフィルタにより分版できるPostScriptコードは、分版フィルタに対応したPostScriptコードに限定されます。分版フィルタに対応していないPostScriptコードは、RIPに搭載されたIn-RIPセパレーション機能で分版出力できます。RIP側でIn-RIP セパレーションを選択するか、もしくはPostScriptコード内に下記のような指示を加えます。

<< /Separations true /ProcessColorModel /DeviceCMYK /SeparationOrder [/Cyan /Black] >> setpagedevice

(CyanとBlack版を出力するよう指示を与えています)

 ただし、Adobe純正PostScriptプリンタに搭載されているほとんどのRIPは、オーバープリントの指示を無視するようになっています。In-RIPセパレーション機能を搭載した業務用RIPのみが、オーバープリントの指示を再現できます。

 実は、Adobe 純正RIPの In-RIP セパレーション機能は、プロセスCMYKカラー指定(C,M,Y,Kの4版の%をまとめて指定する)同士のオーバープリントは再現されないという特徴があります。先に説明した、オーバープリントが指定されたオブジェクトの0%は出力されないというオーバープリントの基本と異なる動作です。これは、 Adobe純正RIPの仕様です。ちなみに最近のPostScript互換RIPでは、この仕様を様々に変更でき、当然Adobe純正RIPの仕様と同じ結果を得ることも可能です。

 Adobe純正RIPであっても、プロセスCMYKカラー指定のオブジェクトをオーバープリントできる、ように見せることができるRIPが存在します。例えば、C0,M0,Y0,K100%オブジェクトを自動的にオーバープリントにする機能は、ほとんどの業務用RIPに搭載されています。 Adobe純正RIPで処理される前に、オーバープリント属性をもつC0,M0,Y0,K100%オブジェクトを検知して、0%のチャンネルを記述しないようにSeparationやDeviceNというオペレータによってK版100%というカラー指定に置き換えられます(多くの場合グレー100%も置き換えられます)。

 Separationは、通常、特色版を指定するオペレータですが、出力先としてC,M,Y,K版を指定することもできます。下記のようにカラースペースを定義しなおすことでK版のみのカラーになります。

[/Separation /Black /DeviceCMYK {0 0 0 4 -1 roll}] setcolorspace

出力先にBlack(K版の予約語)を指定しています。

 Separationでは単版のみを記述できますが、PostScript 3 による記述が許される場合、DeviceNという記述により複数チャンネルを記述できます。例えば、

[/DeviceN [/Yellow /Black] /DeviceCMYK {0 0 4 2 roll}] setcolorspace

というカラースペースを用意すれば、Y版とK版を同時に指定でき、オーバープリントも可能になります。

 このようにSeparationやDeviceN記述に置き換え、0%を含まないカラースペースを使用することで、In-RIPセパレーション時にも、プロセスCMYKカラー指定のオブジェクトをオーバープリントできるように見せることが可能になるのです。

 もしも、オーバープリントを再現できないPostScriptプリンタで、オーバープリントを再現したい場合、Acrobat 5 以降では、オーバープリントの箇所を画像に分割してプリントする機能を利用できます。オーバープリント処理されるべき箇所にオーバープリント処理済みに見える画像を合成することで、オーバープリントしたように見せることができます。同様の機能は、InDesign2.0 以降(色分解 > オーバープリント処理)や、Illustrator CS 以降(詳細設定 > オーバープリント:シミュレート)にも備わっています。しかし、この方法でプリントした結果は擬似的なものです。必ずしも元のデータのオーバープリントを正しく再現した結果ではないということを十分理解し、意識して使用する必要があります。

OPMという属性について

 PDFにはOPMという属性が追加されました。OPMはPostScriptになかった概念です。OPMはオーバープリントモードの略で、オーバープリントと共にPDFのオブジェクト単位で持つことができる属性です。オーバープリント属性を持つオブジェクトのOPM属性が1のとき「ノンゼロオーバープリントモード」または「Illustrator オーバープリントモード」になります。PDFでは「オーバープリント属性なし」、「オーバープリント属性あり」、「オーバープリント属性あり+OPM属性あり」の3種類のオーバープリントが存在します。

 PostScriptからPDFに変換する際、Distiller 6、7では詳細設定にて「オーバープリントのデフォルトをノンゼロオーバープリントにする」にチェックしておくと、PostScriptの中でオーバープリント属性を持つオブジェクトのOPM属性は1になります。Distiller 5 の場合、詳細設定の「Illustrator オーバープリントモード」にチェックします。Distiller 4 では、.joboptionsファイルをテキストエディタで開くと、/OPM 1という記述を見られますし、変更も可能です(/OPM 0)。ほとんどの場合、DistillerのジョブオプションはOPM 1に設定されています。

 ノンゼロオーバープリントモードのオブジェクトは、0%のチャンネルは出力されないという、基本に忠実なオーバープリントが実行されます。CMYKおよび特色版が分版抽出されるとき、指定されたチャンネルのカラーが0%の場合そのオブジェクトは描画されません。

 OPM 0のオブジェクトは、PostScriptコードをAdobe純正 RIP で In-RIP セパレーションしたときと同じ動作になります。つまりOPM 0のプロセスCMYKカラー指定オブジェクトは、オーバープリントになりません。

 Acrobat5以降のオーバープリントプレビューは、OPM属性に対応していますので、OPM 0とOPM 1が混在したPDFにも対応しています。しかし、印刷用のPDFを作成する場合、動作が分かりやすいOPM 1が常に推奨されます。Illustrator 9 以降や InDesign のオーバープレビュー表示もOPM 1になっていますし(ただしPDFを配置した場合はPDFに含まれるオブジェクトのOPM属性が再現されます)、また動作がシンプルであるため比較的に結果が予測しやすいためです。

 OPM属性はプリント結果にも影響します。PostScript 3 プリンタで直接PDFを処理した場合もですが、PDFをAcrobatからPostScript化(つまりPSプリンタへのプリントやPostScript保存、EPS保存)した場合にも影響します。

 PDF内のプロセスCMYKカラー値を持つオブジェクトがオーバープリント属性とOPM 1属性を持つ場合、PDFがPostScriptプリンタ内部でPostScriptに変換されるとき(またはAcrobatからPostScriptや EPSに変換される時)に、プロセスCMYKカラー指定はSeparationやDeviceNで記述し直されます。これによりAdobe純正RIPでの In-RIP セパレーションしたときの独特な振る舞い(プロセスCMYKカラー指定ではオーバープリントにならない)を回避できます。※Acrobatから PostScriptやEPSに変換するときは、PostScript 3形式で書き出した場合にかぎられます。PostScript level 2 形式ではPDFのOPMを再現できませんので、注意してください。

 もしも、オーバープリント属性を持つオブジェクトがOPM 0 とOPM 1 で混在しているPDFからPostScriptを書き出し、再度Distiller(やNormalizer等)でPDFにする場合には、 Distiller(等)側のOPM設定を0にしなければなりません。もともとOPM 0だったオブジェクトがOPM 1に変化してしまうためです(OPM 1は、PostScriptやEPSに書き出した時点でプロセスCMYKカラー値指定でなくなりますので変化しません)。このような問題を避けるために OPM0はできるだけ使用せず、常にOPM 1で運用されることを推奨します。

 ただし、Acrobat8.0からPostScript化した場合は、OPM 0のオブジェクトは/DeviceNで記述されます。

/DeviceN [/Cyan /Magenta /Yellow /Black]

CとMとYとKを同時に扱うカラースペースなので0%も記述されます。ということは、「オーバープリントのデフォルトをノンゼロオーバープリントにする」(もしくはIllustrator オーバープリントモード)に設定されたDistillerで再度PDFに変換してもOPM 1に化けなくなりました。

 余談ですが、比較的新しい PostScript 3015.102 以降に実装されました setoverprintmode オペレータを使用することでも、Adobe純正RIPでIn-RIP セパレーションした時のプロセスCMYKカラーがオーバープリントにならない不自然な動作を防ぐことができます。PostScript の中に true setoverprintmode というオペレータを組み込むだけです。しかし、このオペレータが使われる PostScript コードは RIP バージョン依存になってしまうので、実際にはこのオペレータが使用されることは現状では考えにくいです。先に述べたようにPDFからAcrobatで PostScript 3に変換したときにも、OPM 1が指定されたオブジェクトのプロセスCMYKカラー指定はSeparationやDeviceNで記述されますので、ほとんどの場合 setoverprintmodeオペレータは必要とされません。

グレースケールの問題

 Adobe純正RIPでPDFを出力した場合と、AcrobatからコンポジットでPostScript出力した場合、そしてAcrobatのオーバープリントプレビューでは、グレースケールオブジェクトはCMYK版の上に重なったときオーバープリントになりません。

 PDFの仕様上、CMYK版の上にオーバープリントが可能なのはDeviceCMYK、Separation、DeviceNカラー指定のオブジェクトのみです。グレースケールオブジェクトはRGB、Lab、ICCBasedなどと同じくその他のプロセスカラーとして扱われ、CMYK版の上に重なった場合、オーバープリントが有効になりません。PostScriptではK版の代用としてグレースケールを使用することが可能でしたが、PDFでは全く別物として扱われますので注意してください。

 グレースケールオブジェクトを含んだPDFは、次のような問題も発生させます。

  1. CMYKのK版とグレースケールが1つのPDFに混在する場合、同じ%値でもカラーマネジメント的に別のプロファイルが適用されるためAcrobat上で見た目が違って見えます。
  2. グレースケールオブジェクトをカラーマネジメントによりCMYKへ変換したとき、CMYKのチャンネルに色分解されてしまいます。
  3. Acrobat5ではCMYKの上にグレースケールのオーバープリントオブジェクトが重なるとき、画面表示が正しくありません(K版の濃度が濃くなってみえてしまいます)。

 これらの問題を解決するためには、そもそもグレースケールを使用しないことが求められます。幸い、最近のアプリケーションでは、グレースケールはあまり使われなくなってきています。しかし、未だにIllustratorなどではグレースケールを使用できてしまう問題があります。PDF運用時は、 IllustratorのCMYKのKとグレースケールは、同じ%値でも異なった振る舞いをするので注意が必要です。

 何らかのフィルタ処理を行うことで、グレースケールをK版に置き換えることは技術的に可能です。例えば、最近のInDesignでは下記のとき、配置された画像のグレースケールオブジェクトをSeparation記述に置き換えてくれます。

  1. オーバープリントプレビュー表示
  2. 直接PDFを書き出すとき
  3. プリントもしくはPostScriptを書き出す際、コンポジットではなく「色分解(In-RIP)」を選択したとき

 全てのグレースケールをK版に置き換えてしまえば、当然、グレースケール特有の問題は発生しなくなります。ただし、グレースケールの段階では無効になっていたオーバープリント属性が有効になってしまうことになりますので注意が必要です。幸いInDesignではオーバープリントプレビュー表示の時点でグレースケールを単チャンネルのK版に置き換えて見られるので、オーバープリントプレビューを積極的に使用しましょう。

 ちなみにInDesignのグレースケール置き換えは%値をそのままをSeparation記述に置き換えます、もともと0%のグレースケールオブジェクトがオーバープリントのときK版の0%として描画されます。つまりK版はケヌキに見えます。もしグレースケールをCMYKに置き換えた場合、透明になって欠落してしまう危険があります。そもそもグレースケールにはオーバープリントという概念がないはずなので、Separation記述の振る舞いは好ましいと思います。

自動オーバープリント処理と無意識に付加されるオーバープリントの存在

 現状では、多くの出力行程で(通称)RIPによる自動オーバープリント処理が行われています。出力データ中に含まれるオーバープリント属性を全て無視したり、K100%カラー指定オブジェクトを自動でオーバープリントにしたりできます。

 PDFを正しく運用する上で、オーバープリント属性を全て無視する機能の使用は問題があります。過去のアプリケーションでは、制作中にオーバープリントが確認されないことが多かったため、データ中に含まれるオーバープリント属性を無視するほうが、多くの場合に無難な出力結果が得られました。しかし、本来のPDF運用においては、Acrobatで確認済みのデータに修正が加わることは好ましくない運用です。

 なぜなら、もともとRIPによるオーバープリントとは、仕様が存在しない、RIPベンダーが個々に付加した機能であるため動作が約束されないからです。結果は、出力してみないと分からないことになってしまいます。これでは、PDFをあらかじめチェックする意味がありません。また、RIPでオーバープリントするということは、最終的な出力段階で処理を施すことになるため、出力前にAcrobat画面で確認ができません。また同じ面付け上で全てのデータが影響を受けてしまうことになりますので、やはり正しいPDF運用では出力前に全てのページのオーバープリントが確認済みであるべきです。

 Illustrator 9以降やInDesign2以降には、透明効果という機能が用意されました。透明効果は、現在印刷用途に一般的に使われているPDF1.3および、 PostScript 3に備わっていない機能です。透明効果が使えるアプリケーションが、PDF1.3および、PostScript 3用のデータを作成するときには、透明効果の部分を複数の画像に分割することで、あたかも、オブジェクトが透けて見えるように仕掛けを施します。

 透明効果が分割される際には、もとになるデータのオーバープリント属性が考慮されますので、本来は、分割前にオーバープリントが確定されていなければ、予定された画像のつながりに問題が発生する可能性があります。ただし、透明効果の分割時にできるだけオブジェクトがラスタライズされない設定にされていれば、後からK100%をオーバープリントにすることは、ほとんど問題になりません(Illustrator9を除いて)。

 透明効果使用時は、RIPによるオーバープリント属性を無視して出力した場合、無意識に付加されたオーバープリントにより、正しい出力結果にならない場合があります。透明効果を使用していて、特色版の上にCMYKオブジェクトが重なる箇所が分割されるとき、CMYKオブジェクト側にアプリケーションが自動的にオーバープリント属性を付加することがあります。もし自動的に付加されたオーバープリント属性に気がつかず、オーバープリント属性を破棄して出力してしまうと重なった部分の特色版が白く抜けてしまいます。ちなみに特色版が前面レイヤー側になっていれば、自動的にオーバープリントが使われることはありません。

 また、InDesignやIllustrator CS以降からPostScript を書き出す際、コンポジットではなく「色分解(In-RIP)」を選択して作成されたPDFの場合、プロセスCMYKカラー指定されたオーバープリントのオブジェクトはSeparationで記述されています。Separationは単版のカラー指定なので、例えばM50,Y100%のオーバープリント指定されたオブジェクトは、M50%とY100%の2個のオブジェクト(どちらも表示色指定はM100,Y50%)になります。2つのオブジェクトは、オーバープリント指定により重なって見える仕掛けで、これも無意識に付加されたオーバープリントといえます。属性を無視した場合、手前の階層のM50%だけが出力され、Y100%は白になってしまいますので、やはりオーバープリント属性を無視しての出力はできません。

0.2%未満へのオーバープリントは危険

 Acrobatを含めたAdobe製品のオーバープリントプレビューモードは、約0.2%に満たない%指定は0%として扱われることがあります。つまり約0.2%未満のカラーチャンネルにはオブジェクトが描画されない結果になります。しかし、多くの場合に実際の出力結果は単純に0%か否かで描画されるかどうかが決まりますので、Acrobat画面と出力結果が一致しない場合があるということになります。

 例えば、C100,M100,Y100,K0%のオブジェクトの上にC0.1%のオブジェクトをオーバープリントにします。プレビュー画面上ではC0.1%は見られませんが、実際の出力ではC0.1%のオブジェクトの形で赤になります。

 オーバープリントプレビューが正しい表示にならない現象は、プロセスCMYKカラー指定されているオブジェクトに発生します。通常の方法で PostScriptやEPSから変換した場合も、Illustrator等から直接PDF(やAI)を書き出した場合も、プロセスCMYKカラー指定が使われます。つまりほとんどの印刷用PDFがこの仕様の影響を受けます。

 回避するには、オーバープリント属性をもつプロセスCMYKカラー指定のオブジェクトをSeparationやDeviceN記述を用いて0%のチャンネルを記述しないようにする置き換えが必要です。例えばAcrobatから、一旦、コンポジットもしくはPostScript(やEPS)に書き出せば、SeparationやDeviceNを利用して0%のチャンネルには描画しないカラースペースに誘導されます。そして再びDistillerを用いてPDFにすれば、オーバープリントプレビューと分版出力結果は一致します。但し、AcrobatからのPostScript化の場合CMYKが全て0%でないカラーはプロセスCMYKカラー指定のままになりますので、万が一、CMYKが全て約0.2%未満の場合には解決されません(RIPで直接処理した場合と異なります)。

 もしくは、最近のAdobe製品に配置してプリント時に「色分解(In-RIP)」指定を用いてPDFを作成した場合も、プロセスCMYKカラー指定はSeparationで記述されるためオーバープリントプレビューと分版出力結果は一致します。

 どちらの方法にしても、手間がかかり、また編集中のプレビューと一致しないことになりますので、なによりの回避方法は「日頃から0.2%に満たない濃度を指定したオブジェクトにオーバープリント指示を行わないこと」になります。

 より深刻な問題は、CMYK=0%のオブジェクトに対してオーバープリント属性を加えた場合です。Illustratorはver.9 以降からCMYK=0%のオブジェクトにオーバープリントを指定できるようになりました。過去のIllustratorやInDesignなどは、 CMYK=0%のオブジェクトにオーバープリントを指定できません。結果が予想できない危険な行為だからです。

 Illustratorから直接PDFを書き出した場合、CMYK=0%にオーバープリント属性を指定したオブジェクトは、Acrobatでオーバープリントプレビューモードにしない場合、白に見えます。オーバープリントプレビューモードにした場合、このオブジェクトは見えません。実際の出力結果も描画されません。

 しかし、Illustratorから書き出したPostScriptやEPSには、オーバープリントが有効なRIPで実行されるとき、もしくは DistillerでPDFに変換されるとき、Kチャンネルが=0.05%に変化するという仕掛けが含まれています。PDFに変換した直後の Acrobatのオーバープリントプレビュー表示では、描画されないオブジェクトに見えるのですが、実際の出力結果ではK版が0.05%で描画されてしまうという問題が発生します。結果、実際の出力では背景のK版が消えたように(ヌキになって)見えてしまいます。

 0.05%問題はIllustrator内部で勝手に仕掛けられるので、この事実を知らなければ日頃注意していても回避できません。一旦、PDF をPostScriptにして再度PDFに戻すか、もしくは最近のAdobe製品に配置してプリント時にIn-RIPセパレーション指定を用いてPDFを作成しなければ、出力結果が確定されないからです。

 また、PDF書き出しと同じ、0.05%にならない場合にも問題があります。プロセスCMYKカラー指定のCMYK0%はオーバープリントプレビューでは正しく何も描画されませんが、オーバープリントプレビューをしないと白のオブジェクトとして見えてしまうのです。

 ちなみにPDFがPostScriptやEPSに変換される際、オーバープリント属性を持ったプロセスCMYKカラー指定のCMYK0%オブジェクトは、SeparationやDeviceNに置き換えられる時、Noneという特色版に移動します。Noneはレジストレーションカラー(All)の反対で、常にどの版にも印刷されないという特別な意味があります。Noneに異動後はオーバープリントプレビューをしないときもなにも描画されませんが、オブジェクト自体はまだ以前の位置にいます。「色分解(In-RIP)」を使用した場合は、オブジェクトが破棄されます。

 最善の回避策は、CMYK=0%のオブジェクトにオーバープリント属性を指定しないことです。オーバープリントを理解している人ならば、CMYK =0%のオブジェクトにオーバープリントを指定した場合、出力結果としてそのオブジェクトは描画されないと思うかもしれません。しかし、原理としては正しくても必ず透明になる約束はありません。

 例えば、プロセスCMYKカラー指定されたCMYK=0%のオブジェクトがオーバープリント属性をもっていても、Acrobatでオーバープリントプレビューが選択されていない、もしくはAdobe Reader 6より前のバージョンで見たときは「白」として表示されてしまいます。また多くのPostScriptプリンタでは、オーバープリント属性を無視しますのでこれも白になります。それでも、本当の出力結果は描画されないという矛盾したものとなります。

 CMYK=0%がオーバープリント属性のとき描画されないのは、理屈上であり、「多くの人にとって必要とされない仕様」であると理解すべきです。もともと描画されないことが期待される図形なのであれば、もともとその図形自体が取り除かれるべきです。

色分解(In-RIP)を用いたPDF作成、運用について

 積極的なRIPベンダーは、InDesignから印刷に適したPDFを作成する手順として、PDF変換前のPostScriptの作成時にアプリケーションのプリントダイアログから「色分解(In-RIP)」を選択するよう案内しているようです。

 通常、DTPアプリケーションからPostScriptプリンタに送信されるのは「コンポジットPostScript」です。InDesignのプリントダイアログから「色分解(In-RIP)」を選択した場合、コンポジットPostScriptの前にIn-RIP色分解に必要な情報(トラップ、線数、アミ角度)が加わります。と同時にいくつかのフィルタがダウンロードされます。

 特色をプロセスカラーに変換する(プロセスカラーに変換指定されたとき、また可能であれば)フィルタ、コンポジットCMYKカラー指定オブジェクトがオーバープリントのときSeparationオブジェクトに変換するフィルタ、そしてグレースケールをSeparation カラー(Black)に変換するフィルタがダウンロードされます。

 確かにオーバープリント指定されたオブジェクトがSeparation(やDeviceN)で記述されていて、なおかつグレースケールを含まない PDFは、Acrobat画面上で分版出力結果を予想する場合にとても有用です。しかし、正しいAcrobat表示ができるのと引き換えに、次のような特徴があることを理解して運用することが大事です。

  1. 編集アプリケーションのオーバープリントプレビューと異なるPDFが作成されることがあります。プロセスCMYKカラー指定されたオーバープリントオブジェクトの振る舞いの曖昧さが無くなるのと、グレースケールが単版のK版として記述し直されるためです。
  2. 分版出力時には、データ中のオーバープリントを忠実に再現しない場合、色化けが発生します。複数チャンネルのオーバープリント属性オブジェクトが、それぞれの版毎に分かれて重なったオブジェクトのオーバープリントになっているためです。
  3. PDF/X の類いを配置している場合は、「色分解(In-RIP)」を使用してはいけません。なぜならデータ通りの再現(コンポジット運用)がPDF/X出力時のルールだからです。「色分解(In-RIP)」を使用した場合、PDF/Xに変更が加えられてしまいます。※ただし、PDF/Xが作れないというわけではありません。「色分解(In-RIP)」で作成されたPDF/Xは、再び「色分解(In-RIP)」で出力しても変化しませんので、より厳密な分版出力結果が予想できると言えます。ちなみにInDesignのPDF書き出しもグレースケールをK版オブジェクトに変更しますので、PDF/Xの出力には使用できません。

SeparationやDeviceN記述の問題、PDFはそのものが出力見本となる

 PostScript運用において、コンポジット記述からSeparationやDeviceN記述への置き換えは、オーバープリントを基本に忠実に分版出力するために使われますが、実は気をつけなければならない問題があります。SeparationやDeviceNで記述されたオブジェクトは、ほとんどのPostScriptカラープリンタ出力において、カラーマネジメントが無効になってしまいます。プリンタの原色で出力されてしまいます。一部の業務用RIP(単体または組み合わせ)では「分版合成」機能や「オーバープリント再現」機能によって正常なカラーマネジメント出力を再現可能ですが、高価な設備が必要になってしまいます。

 PDF運用でも、SeparationやDeviceN記述はカラーマネジメントが働かない問題が発生します。しかし、Acrobat(5以降)の画面上では、正しくカラーマネジメントされた表示が可能です。Acrobatのオーバープリントプレビューで、より正しいオーバープリントの出力結果も得るためにSeparationやDeviceNで記述が使われることもあります。

 印刷用途向けに正しく作られたPDFの分版出力結果を予想するために最も信頼できるのは、Acrobatのオーバープリントプレビューです。プリンタ出力よりも信用できる出力見本になります。PDFは、PostScriptよりも確実なデータの受け渡しが可能で、かつ運用コストも軽減することができます。

 印刷用途向けに正しく作られたPDFは、Acrobatのオーバープリントプレビュー通り分版出力できます。問題なのは、オーバープリントプレビュー通り分版出力できるのは、PDFに含まれるオーバープリント指定がきちんと再現された場合に限られているということです。将来的には、日本もPDF に含まれるオーバープリントを忠実に再現する出力が主流になることでしょう。

 今日現在、日本では、分版出力時のオーバープリントの忠実な再現を望むことは難しいかもしれません。現状、印刷の現場では、オーバープリントプレビューができない Illustrator8やQuark等のアプリケーションが、未だに多く使われています。オーバープリントプレビューができないアプリケーションでは、正しいオーバープリント指定が施された出力データを作成することは困難ですので、出力分版段階では従来通りRIPベンダーが用意した自動オーバープリントで処理される可能性が高いと思うからです。

 また、オーバープリントプレビューできるアプリケーションが普及したとしても、限られた一部の業務用PostScriptプリンタ以外では、そもそもオーバープリントの指定そのものが無視されてしまいます。PDFの場合オーバープリントオブジェクトは、SeparationやDeviceN記述になって出力されるので通常のPostScriptプリンタではカラーマネジメントが働かない問題もあります。作業行程の一部にプリンタ出力見本が必要な場合、PDF内のオーバープリント指定よりもプリンタ出力が正しいということになってしまうかもしれません。

より安全な印刷用PDFを作りたいときは、極力オーバープリントを使わないようにしましょう。

PDF運用におけるオーバープリントの使い方、3つのコツ

  1. K100%以外のCMYKカラーにオーバープリントを指定しない
  2. 常に特色版(スポットカラー)は最前面のレイヤーにする
  3. 入稿前、もしくは面付け前の段階でオーバープリント表示ができるAcrobatで確認する

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